信州戦争資料センターと八十二文化財団共催の展示会「戦時下の信州教育展」は、2018年8月1日から長野県長野市のギャラリー82で19日まで開催中です。平日午前9時半―午後6時、土日曜午前10時―午後5時(最終日は午後3時)。入場無料です。開催場所の
ギャラリー82は長野市岡田178-13、長野駅や長野バスターミナルから徒歩圏内です。
今回、写真34点、戦時資料34点を展示しています。順次、内容を紹介していきます。いずれも信州戦争資料センターが収蔵しているものです。写真は昭和7年4月から昭和18年3月までに長野県内で撮影されたもので、11校が登場します。
パネル紹介後半。6枚目のパネルです。
青年男子を対象に昭和14年から始まった
体力章検定(18年度から女子も実施)。こちらは昭和17年の小県蚕業学校における体力章検定の様子です。カラー化したのは「重量運搬」で、初級40キロ、中級50キロ、上級60キロの俵を担いで50メートルを15秒以内で走ります。ほかに手榴弾投げ、走り幅跳び、懸垂の各場面をモノクロで組み合わせました。手榴弾投げで使っている
規格手榴弾は、会場に展示してあります。いかにも軍隊のための訓練と感じます。
7枚目は、戦時下に登場した「滑空機」と「国防競技」です。
昭和16年から国民学校では模型飛行機作りが正課になりました。長野県は昭和17年、県内全男子中等学校で滑空団を編成、滑空訓練を実施する方針を決めます。3学年(16歳以上)以上の教練の時間に訓練を行うことを目標とし、同年末から翌年にかけて、各中等学校に布張りの滑空機が次々と納入されています。カラー化した写真は昭和17年12月に南安曇農学校で組み立て中の滑空機で「南農号」と命名しています。
太平洋戦争開戦後に滑空士試験制度が始まり、昭和17年10月には諏訪中等学校(現・諏訪青陵高校)の滑空部5年生3人が、初めて三級滑空士になったと新聞で報じられました。大阪の中等学校生の3級滑空士免許を一緒に展示してあります。
国防競技は、昭和14年の第10回明治神宮国民大会に向けて、初めて設けられました。行軍競争、障碍(しょうがい)通過競争、手榴弾投擲突撃競争、土嚢運搬継走、けん引競争―の5種目。いずれも軍装、帯剣が基本で行軍、障碍通過、手榴弾投擲突撃の3種目は銃も背負って競技をするとなっていました。カラー化写真は、蓼科農学校卒業生のアルバムからで、障碍通過競争の一場面です。
8枚目は、勤労奉仕です。
山で下草刈りをして肥料にでもするのか、運び下す南安曇農学校の生徒たちをカラー化。AIは自然系の色付けにめっぽう強さを発揮します。下段は伊那高等女学校の「軍服修理」と奉安殿を整備する砂利の三峰川からの運搬です。
戦時下の勤労奉仕は長野県の場合、昭和13年5月に中等学校、国民学校を総動員する大綱を決定。14年4月には長野県の取り組みなどを参考に、文部省が勤労作業を義務制とする通牒を出します。16年には学徒挺進隊動員実施要綱により、奉仕活動が正科に準じると位置付けられました。同年11月、国家総動員法による国民勤労報国協力令公布。各学校に協力令に基づく勤労報国隊ができます。法律では中等学校の3年以上から成人を対象としましたが、長野県は独自に1年から対象と決めました。戦時下の勤労奉仕は自発的なボランティアではなく、義務でした。「奉仕」という言葉の印象とは違います。やがて名称は勤労動員に変わり、学業も停止します。
9枚目は、戦争とかかわる学生たちの姿を集めました。
長野商業学校の満州事変に合わせた慰問袋集めをカラーにしています。印刷写真あらのカラー化ですが、そこそこ、いい感じになったと思います。後は昭和13年の武漢三鎮陥落を祝うパレードに参加した伊那中学と長野高等女学校の姿です。そしてもう1枚、昭和13年の東筑摩農学校の生徒の記念写真を入れてあります。その意味は会場で。
10枚目、最後は小県蚕業学校の昭和17年の防空演習です。
濡れむしろを焼夷弾にかぶせて消火する訓練をカラーにしてあります。濡れむしろを持つ基本姿勢とは―会場の説明をご覧ください。
防空演習の写真に合わせて、須坂高等女学校の生徒が使っていた防空ずきんを展示しました。末期の中等学校制服と一緒にご覧ください。
こうした学生一人一人や訓練を、より実感していただければありがたいです。
ただ、この時期までは、まだ軍事色が強くなっているとはいえ、学業が中心の学校生活でした。昭和18年度以降、生徒たちはどんどん学問から引き離されていき、ただの労力となっていきます。逆説的ですが、今回の展示は学業をぎりぎりまで軍事と両立させた戦時下の教育ということになります。この先は、ただの動員になるのですから。
他の展示品等は、あすに。
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※WEB上でモノクロ写真をカラー写真のように加工できる、
ニューラルネットワークによる自動色付けを試しています。早稲田大学の飯塚里志さま、 シモセラ・エドガーさま、石川博さま、関係各位に熱く御礼いたします。加工方法については、東京大学教授の渡邉英徳さまにご示唆をいただきました。ありがとうございました。