昭和14年5月に始まった廃品回収、同年10月にあらゆる値段を固定する9・18ストップ令で1年後にはとんでもない状態に

信州戦争資料センター

2018年08月29日 21:03

 こちらのチラシは昭和14年5月ごろ、長野県が作ったものです。日中戦争がなかなか終わらず、国内での物資のやりくりが次第に難しくなってきた時期です。

 国の方針もあり、長野県は廃品回収を促進させる「長野県廃品回収協議会」を結成。買出人組合も組織し、買いたたかないよう最低価格を設けました。このチラシは、各家庭に普及のために配ったとみられます。

 ところが、同年10月18日、国家総動員法に基づいて、あらゆる価格や賃金が9月18日の水準で固定されることになりました(9・18ストップ令)。価格が固定されてもモノがあるなら問題はないのですが、そもそも戦争に伴う物不足がインフレをよんでいたのでして、物がないのに表向きの価格を固定するとどうなるか。いわゆる「闇取引」がここから活発になり、公定価格とかけ離れた「闇値」が生まれていったのです。

 さて、最低買い出し価格が1銭だったビール瓶はどうなったでしょうか。昭和15年4月24日の信濃毎日新聞を見ると「長野市内では1本13銭が当たり前、うっかりしていると30銭くらいのビール瓶にぶつかることもある」とあります。これは瓶の製造が滞り、小売店ではビールやサイダーの商品を、空き瓶と引き換えでないと仕入れられないという「バーター制」が導入されたのが原因でした。小売店としては、商品がなくては困ります。たとえ利益が減っても瓶さえ確保できれば商売になるので「闇値」も吊り上るというわけです。

 警察としても、こうした状況を見逃しておくわけにはいきません。きちんと空き瓶の公定価格を守るよう、目を光らせるようになりました。その隙間を縫うような、リサイクル精神に反するとんでもない行動が広まっていると、昭和15年6月7日の信濃毎日新聞に掲載されていました。

 <砕けた瓶の方が高値 1本当り5、6銭>
 【松本】空き瓶の闇に厳重監視の目が光っているため、昨今ではだいたい公定価格で取引されている模様であるが、今度は新手の悩みが生まれてきた。ビール瓶の公定値段は1本2銭で問屋の手に渡るときは2銭8厘と規定されているが、破片を目方で取引すると1本当り5,6銭の高値を呼んでいるため、松本地方では満足な瓶をわざわざ粉砕して出荷する向きが激増してきた。
 そのまま使える瓶に対しわざわざ手数をかけて破砕するのだからずいぶんもったいない話ではあるが、之をさせないためには空き瓶の公定価格を引き上げる以外は適当なる対策が見当たらぬ模様で、松本警察署保安係も頭を悩ましている。

 瓶を砕いているのは消費者か小売店か、はっきりしませんが、小売店は瓶がほしいわけなので、ここで瓶を割っているのは消費者でしょう。一度は30銭とかで売れたのが2銭と厳しくなり、法の網を縫うように、ガラスくずの方が得と判断したのでしょう。最初に挙げたチラシ、こちらも1年もたたぬうちに、ほぼ実態をあらわさない「紙屑」となってしまっていたようです。

2018年8月29日 記

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