産めよ殖やせよ「たくさん子供産んだら表彰!」―狙いは子供の増加より「家制度」維持

 日中戦争が短期戦で終わりそうになくなってくると、国が女性たちに求めたのは次世代を担う子供をたくさん産み育てること。そんな中で、多産家庭への表彰が始まりました。
産めよ殖やせよ「たくさん子供産んだら表彰!」―狙いは子供の増加より「家制度」維持

 こちらは、北海道札幌市の地区で出した9人の子を持つ家庭への表彰状。厚生省では、昭和15年に10人以上の子供を産み健全に育成した家庭を表彰する「優良多子家庭表彰」を開始しました。当センター所蔵の表彰状は、これに漏れた人を表彰してやりたいと企画したのかもしれません。なぜか、男性に対してだけの表彰ですが。

 優良多子家庭表彰要綱の趣旨全文は、以下のようになっています。
 「堅実なる家庭を営み子女を健全に育成するは国民生活の根幹たるの基礎を堅固ならしめ国本の培養に寄与するゆえんなり。ことに、多数の子女を擁し之が発育を全うするは一般の亀鑑となすに足るものとす。よってこれらの家庭を表彰し、もって児童愛護精神の昂揚を図り家族制度の確保と国運の隆昌に資せんとす」

 人口増加に関する言葉が一語も入っていません(驚愕)。

 多数の子女を育てるのは見習うべき姿であるとは言っていますが、あくまで「家」「家族制度」の維持確保なのです。

 厚生省は「産めよ殖やせよ」政策として、昭和17年には妊産婦手帳の発行で妊娠期の健康管理や優先的な配給に役立てています。また、家族手当の創設や、親子の健康管理の推進といった、現代にもつながる地味な仕事をこなしていました(もちろん、狙いは優秀な兵隊をつくることであったにせよ)。結婚の奨励も盛んに行われましたが、無理やり子供を産ませたというのはないようであり、人権無視とかではなさそう。

 こうした、ある種きちんと効果がある政策に対し、表彰制度は浮いて見えます。だって「表彰されるから頑張って10人にするか」とは考えないでしょう。そして、表彰条件には「父母および子女は性向善良にしてその家庭堅実なること」なんてあるのが、単純な子育てではなく、大日本帝国が理想とする「家」を表彰する狙いが明らかです。

 最近も多産家庭を表彰するという国の案が出てきたとき、とてつもない違和感を覚えたのは、このためだったのかと。「表彰されるから〇人産むか」と考える人はいないから多産には寄与しないのに、政策として持ち出すのは「家制度」のためだったからなのだと。

2018年1月25日 記

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2018年01月25日 Posted by信州戦争資料センター at 22:07 │収蔵品